それでは、細胞単位の老化とは具体的にどういう状態なのでしょうか? テロメアについて解説していきます。テロメアは「命の回数券」ともよばれています。テロメアが短くなっていると、寿命が短くなったともいわれます。
テロメアとは、遺伝子の本体であるDNAの先端に存在する構造を示す言葉です。実際にはテロメアは細胞分裂の制御や、その結果を示す指標に使われている構造体です。細胞分裂を繰り返すたびにその長さは短くなり、限界に達すると遺伝子であるDNAの複製ができなくなってしまいます。
DNAの複製とは、細胞分裂の現象のことです。老化は細胞死が細胞分裂を上回ってしまったことを示しています。DNAの複製ができない=細胞分裂ができないため、細胞死のレベルが変わらない限り老化に至ってしまいます。実際、テロメアが限界に達し細胞分裂がストップしてしまうと、皮膚はシワシワになり、筋肉は弱まり、その結果、足腰も弱くなってしまいます。
『死神』という落語をご存じですか?とある死神が、「ろうそくの一つ一つは人の寿命である」といい、「おまえは間もなく死ぬことになる」と、今にも消えそうなろうそくを指し示します。驚いた男が「助けてほしい」と懇願すると、死神は新しいろうそくを差し出し、「これに火を継ぐことができれば助かる」といいます。そして、男は今にも消えそうな自分のろうそくを持って火を移そうとするのですが、焦りから手が震えてうまくいかず、死んでしまうという内容です。
似たような話が漫画やドラマでもありますが、共通するのはろうそくです。命の回数券とよばれるテロメアですが、まさにこの寿命のろうそくと一致します。燃えてしまい短くなったろうそくは長さを戻すことはできませんが、テロメアは長さを戻すことができる点で寿命のろうそくとは違います。落語になるような逸話が現実となり得る科学の進歩は驚きですね。




